―人生の質は言葉の質である
『笑いと治癒力』の著者としても有名なノーマン・カインズ博士は、「言葉は病気を創り出す」というフレーズを切り口に、いったん物事を決めつけてしまうと心理状態もそれにより左右されるということを説いている。
例えば、立ち直れないほどの失敗や敗戦を経験した際に「もう駄目だ」と悲嘆に暮れるのか、それとも「まだまだ人生はこれからだ」と思い闘士を燃やすのかだけでも大きな違いがあり、
未来に対して肯定的なイメージを持っているだけで身体の免疫機能は驚くほど活性化することも複数の研究・調査によって明らかになっている。
つまりは、言葉が貧弱な人は精神的にも貧弱な人生を送ることになるが、一方で言葉の質が富強な人は人生もまた豊かで強靭なものへと変化していくのだ。
だからこそ、日頃からネガティブな言葉を使わないよう注意を払い、より前向きな言葉をチョイスする習慣を身に付けていくことで、競技やビジネスの現場で遭遇することとなる様々な課題をあなたには打破していってもらいたい。とはいえ、「やればできる」「次に集中」「すべては必然」といったように、発する言葉をポジティブに変換させるといった類の話を、私が本コラムにて綴っていくのもどうかと思うので(もちろん簡易的で即効性もあるアクションプランだが)、今日はもう少し本質的な話をしていきたいと思う。
―人生に有用な6つの言葉の意味を定義する
一旦話は逸れるが、本質を捉えるということはいつだって重要である。
安定した軌道のショットを再現性高く同じターゲットに撃ち続けることも、ビジネスで高い成約率を叩き出す科学的なトークスクリプトやメタファー(例え話)を用いた雑談力を身につけるにも、ロールモデルの目に見えた部分だけを真似したところで、なかなか上手くは機能しない。
それは、あなた自身が模範するその対象者とはそもそもの身体的感覚や思考プロセスが全く異なっている可能性が高いからだ。
しかし、本質を見抜けば結果は変わってくる。本質とは、100人の成功者がいたら、その100人が100%抑えている法則性のようなものだ。
会話の認識のズレを無くすために話はまず結論から話す、身体動作のズレを極力無くすためにショットを放つ前は必ず軌道のイメージを持つなどといったように、目に見えないところで成功者が脳内で何を考え、どのような根拠を持ってその行動を行っているかをイメージする力が生産性の高い成長を望む上では求められる。
ここで話を本題に戻すが、競技やビジネスで成功する人々が発する言葉の性質はなぜポジティブであるのか、その本質をここから紐解いて行いこう。
まず重要なのは、社会的成功を通じて経済的にも余裕があり、既に自信があるからこそ彼らはポジティブな言葉を使っているわけではないということだ。彼らは、成功する遥か前からポジティブな言葉を武器とし自らの人生を切り開いてきている。
では、なぜ成功者達は成功を手にする前からポジティブな思考でいられたのか。その秘密は「未来に対する成功イメージ」を強烈に描けていたか否かにある。
ここで6つの言葉をあなたに紹介しよう。
目的/目標/ゴール/夢/自己理念/自己実現像
聴き馴染みのある言葉も中にはあるだろうが、あなたは以上6つの言葉の意味を正確に答えることができるだろうか?
念のため、私の方で各種言葉の意味を定義してみよう。
目的:物事を達成した際に果たされる自分の願い
目標:物事を達成するために設定される中継的指標
ゴール:物事の達成地点それ自体
夢:将来実現させたいと、自分の中で思い描いている願い
自己理念:自分が担いたいと願う社会的役割への希望自己実現像:人生を通じ完成させたい理想の自分像
―6つの言葉が持つ力を戦略的に活用する
これら6つの言葉の意味を正確に理解し、自分の理想とする未来イメージを文字や文章として明確に言語化することは人生において大きな意義を持つ。
私がコーチとして多くのプロアスリートや経営者と仕事をしてきた中でも、特に大きな社会的成功を収めている人は100%の確率で、この6つの言葉の内4項目以上の言葉の意味を感覚的ないしは意図的に理解し、その言葉の持つ力を活用していた。
ちなみに4項目と表現したが残り2つが何かといえば、それは「自己理念」と「自己実現像」である。いかに偉大なる成功者といえども、時にこの2つのイメージが抜け落ちている場合が往々にしてある。
ここで一つ例え話をしよう。プロテニス界におけるレジェンドの一人に、アンドレ・アガシという米国出身のスタープレイヤーがいる(現在は引退している)。アガシは、グランドスラムで通算8勝を挙げ、オリンピックでも金メダルを獲得したスーパープレイヤーだ。
そんなアガシは「10歳までに、心の中で何千回もウィンブルドンで優勝していた」と発言している。事実アガシは、1992年の夏にウィンブルドン優勝を果たすこととなるが、その後パフォーマンスは大きく失速し、遂には薬物にまで手を染めることとなってしまった。
そう、彼はバーンアウトしてしまったのだ。
後にアガシは、世界No.1コーチと名高いトニー・ロビンズのコーチングにより、見事世界No,1プレイヤーに返り咲くこととなるのだが、この話は例え優れた才能と意志力があったとしても、「夢」という言葉が持つ力だけではその実現を果たした後の精神状態を支えるには些か不安を残すという事実を指し示す良い例だといえる。
事実、引退を迎えた後のプロアスリートの40%が鬱などの精神疾患にかかっており、これは上場やバイアウトを終えた企業経営者にも一部似たような傾向があると感じている。
例え社会的な成功を収めたとしても、夢や目標を果たした瞬間に生きる目的を見失い精神的な安定を保てないというケースは決して珍しい話ではなく、精神的に強いうというイメージを世間的に持たれているプロアスリートや経営者ほど、むしろこのパターンに陥る傾向が強いのだ。
だからこそ、私は「夢」と合わせて「自己理念」を掲げることをクライアントに強く勧めている。
―絶対的な成功イメージと理念観を持つことが重要
自己理念とは私がずいぶん昔に作ったコーチングに用いる概念の一つであり、今では多くの業界人に活用いただいており嬉しい限りだ。
自己理念と夢の性質の違いは、「社会的役割」にフォーカスしているのか「自己最大欲求」にフォーカスしているのかにある。
欲求というのは満たしたら終わりだ。ゆえに夢の実現は、ただ欲求を満たすだけの行為ともいえる。一方で自己理念というのは、社会的役割に重きを置いているために限りがない。
例えば、先ほど挙げたアガシを例とすると、「ウィンブルドンで優勝したい」というのが夢であるならば、「テニスを通じて世界中の人々を幸せにしたい」と目的を置き換えた表現で語られたものが自己理念といえる。
自己理念を掲げることで夢が一つ下のレイヤー(層)へと移り、夢の実現によるバーンアウトの確率が下がるだけでなく、引退後も一貫した理念観を持って生きることを可能とするイメージが湧くのではないだろうか。
そして、自己理念の実現に向けて夢を果たし続けている今その瞬間こそが「自己実現像」に最も近い自分自身であり、この感覚を持って人生を送れている人というのは、お金や人間関係に執着することなく、安定した精神状態を確保することを可能とする。
冒頭で挙げたように、口にする言葉から変換をかけていくアプローチが有効である一方で、自分自身が発する言葉を本質的な部分から変えていくための手法として、6つの言葉の性質を理解・活用した上で、未来に対する強烈な成功イメージを持つということが有効な手段であるということを本コラムでは提案させていただいた。
本日紹介した6つの言葉をあなたなりに活用し、「感情レベル」に達する絶対的な成功イメージを描いていくほどに、あなたの潜在能力は引き出され、あなたの脳内からネガティブな感情が次第に排除されていくことだろう。
より良い自分を追い求めるあなたには、ぜひ意識してみて欲しい。